日本製品の品質が国際的に評価されているのは、単に機能の多さや性能の高さによるだけではなく、使いやすく、信頼性が高いためです。これは企業のすぐれた経営管理の成果ということができます。経営工学(Industrial Engineering)は元来、工場の経営管理を対象にして生まれましたが、今日では、ソフトウェアやサービスを含めた多様な商品をその対象とし、企画・設計から販売までの企業の全部門にわたる活動を取り扱うようになり、広く経営システム全体に対して適用可能な理論と実践的技術を統合した学問に発展してきました。
経営システム工学専攻では、社会および地球環境も考慮にいれた広い視野に立ち、情報技術を含めた工学的手法の適用を通して、より良い組織運営を実現するための方法論の研究・教育に取り組んでいます。
経営システム工学の扱う領域は多様です。本専攻では、その中でも特に実務に直結する、品質経営、環境経営、新製品開発、セキュリティ・マネジメント、信頼性・安全性工学、統計工学、理財工学、システム工学、最適化設計、非線形システム論、情報資源管理、知能システム工学、ヒューマンメディア工学などの分野で、指導的な役割を果たすことのできる研究者、技術者の育成をめざしています。また、企業においては、経営環境の複雑化にともない、経営システム工学に関するより専門的な知識と能力を持った経営管理者、技術者が強く求められるようになっております。このような要請に応じて、産業界で活躍している人に対して、より創造的な視点から実際問題の解決に取り組める応用研究の機会を提供することも本専攻のもう一つのねらいです。
経営システム工学の扱う領域はどんどん広がる傾向にありますが、本専攻では、これを「人間」、「情報」、および「システム」の3つの視点からとらえ、工学の立場から貢献できる領域を中心に、経営システム工学の研究・教育に取り組んでいます(下図参照)。この研究・教育姿勢は社会に高く評価されており、課程を修了した者は製造業、コンピュータ関連産業、サービス業、コンサルティング業などの多彩な企業において、第一線で活躍しています。
企業をはじめとする様々な組織をより良い形で運営していくための方法論を提供することは、経営システム工学の重要な役割の一つです。このため、外部との共同研究はその発展において不可欠なものとなっています。本専攻では様々な企業や研究機関と積極的に協力し、新たな経営システム工学に関する問題の発見とその解決に取り組んでいます(下図参照)。また、このような過程の中から単に大学の中にこもっていたのでは得られない多くの有用な研究成果が生み出されています。
企業においては、経営のグローバル化や人々の価値観の多様化などにともなって、従来の経営システム工学の手法を単に適用しただけでは解決できない多くの問題が発生しています。優秀な人材を大学院に派遣し、産学共同体制のもとにより創造的な視点からこれらの問題を解決することに対するニーズが急速に高まっています。本専攻博士後期課程では、このような社会からの期待・要請に応えるために、企業や他の組織に在籍しながら日常の実務で直面している問題を研究課題として取り上げ、その解決を通して新しい方法論の開発を試みることのできる研究指導体制を用意しています。研究指導の時期・場所等についても、取り上げた研究課題の内容や学生個別の事情に応じて、研究成果がもっともでやすいように配慮をしています。
経営システム工学の研究課題に取り組むには様々な知識や技術が必要とされ、単一の視点からのアプローチでは解決が困難であることを考慮し、毎年行なわれる中間発表等の場において直接指導を担当している教員以外からも研究内容についての意見・指摘が受けられるようにしています。また、複数の教員(主指導1名、副指導1名)が研究指導を担当することもあります。さらに、数学専攻等と協力してデータ科学副専攻を設け、より幅広い能力を身につけることができるよう工夫しています。
経営システム工学専攻の属する理工学研究科は東京都文京区にあり、企業や他の研究機関との共同研究を行う場としては最も望ましい条件を備えています。また、本専攻の学生が取り組む研究課題の解決にあたっては、高度な計算機技術の利用は不可欠で、このため、研究・教育上必要な機能を備えた先進的な情報処理施設を自由に利用できる研究環境が整えられています。
近年、多くの国々からの留学生が本専攻をおとずれ、その研究・学習に意欲的に取り組んでいます。外国人留学生のための特別入試やチューター制度(大学院生が留学生に対して日本語の学習および学生生活等に関するマン・ツー・マンの指導・助言を行う)などが設けられています。留学生を積極的に受け入れ、学生一人一人の能力に応じたきめの細かい指導を行っていることも本専攻のもう一つの特色です。